山林竹田更良記

思いつきを。

無題

さて、モチベーション、つまり動機づけというものはいったいどこから出てくるものなのでしょうか?

それはずばり、欲望でございましょう。

あれがほしい、こうしたい、そうなりたい。ありとあらゆる物に、様々な形で欲望の矛先は向けられます。
時とともにより大きく、あるいは急に消えたり、忘れたり。そんなときもありましょうが、それ自体は際限なく湧くものでありましょう。でももし、欲望がなくなってしまったら?
「無欲を説き実践するような人々、一部の仏教徒など、欲を捨てているのは確かだが、なぜ生の欲求は捨てようとしないのか」
この疑問は誤っておりました。
欲を除けば穴一つ、底しれぬ恐怖が現れました。本能的欲求はもはや忘れてしまった。食欲性欲、この大なる二つはインスタントに満たされる。鮮やかに力強いそれは存在せず。習慣と言えば聞こえがよいが、惰性、それがふさわしく思います。
今だかつて、欲望は消そうとすれど欲望を欲するなどという気違いがありましたでしょうか。
習慣に依らぬ明確な欲望。恐怖と惰性の生を破壊できるだろうか。死を忘れさせてくれるほどの欲望。生を忘れるほどの。

改札

 白いガラスで覆われた四角い端末に、紙切れを入れる。

 

ガ、ディィイ

 

 唯一の開口部に紙が巻き込まれる。

 

グーーサリサリサリサリ…チャカッ

 

 読み取られ、用済みになった紙が細切れにされて、のっぺりとした表面に数字が十一と出た。私の一時間の労働は電車の十駅分、その程度。

 

ティピピピピピピ…

 

 手をかざすと数字は一つずつ、ゼロまで減ってゆく。それにしても、一々いい音だ。神は細部に宿る。むやみな多機能は付加価値ではなく混乱を呼ぶものだ。

 

 立ち並ぶステンレス製の角柱、そのてっぺんの画面にその手をかざす。一瞬で私の身体は全て読み取られている。携帯に脱水状態と表示された。知っている。のどが渇いているのだから。言われなくともわかっている。

 下へと階段を下っていると、ブレーキ音がした。ちょうど到着したようだ。

 

タッタパタッタパタパタパタパタタタタタ…

 

 急ぐほどにキャリーケースの三軸回転式コロのリズムは早くなる。楽しくなってきた。足音も合わせよう。

 

タッタカタパタン カパタパ パッカタ タッタカパタンカパタカ ッパパパ コパン!

 

 階段終わり、一番下。まだ電車を覆うチューブのゲートは空いていた。滑り込みセーフ。呼吸が乱れているが、これでいいのだ。現代人は日常で運動をしなさすぎる。これぐらいが、いいのだ。少しずつ高くなってゆく電車のモータ音を聞きながら、ドアの溶接跡を眺める。それは恐ろしくなめらかで、私の心に平穏をもたらす。誇りはここにある。雑に終わらせさせない、何か体に染み付いた習慣のようなものだ。

 外には巨大な卵のようなものが見えた。都庁だ。素敵だけど、ミスマッチに思えるなぁ。線路脇には古い民家があるままである。こいつらは永遠に時代遅れの、現在にこびりついた過去。燃やして消してしまいたい。私は行動しない過激派だから。皆が皆同一の理想を共有するわけはないし、そもそもそこまで考える必要もないのだ。均一な世界は訪れなかった、それだけだ。とらえどころのない曖昧な世界のままだった。

あかぐろ

見ろ、赤黒い血の空だ!幻想がやってくるぞ、ガスは止めたっけな。チャリに乗って出かけよう、夕飯はもういらない。どこか遠くへ、知らないところへ行こう。革サドルは馴染まず、痛いままだけれど。探しものは頭の中にあって、どこに行っても見つからないのだ。触れられないもの、手は届かないもの、求めても決してそのままでありえず、現実が丸めて飲みこんでしまう。気づけ、見えないのか。あるだろうここに、それが。無視できるのか?それとも、あきらめたのか…。あるいは求めていないのか。いいや僕は子供だ。絵本の中にいる。燃やせ。赤く燃やせ。そうだ、赤黒いのは消えた幻だ。憎しみだ。夢を見せたのか?

ずれ

どいつもこいつもお金ばかりだ。何かおかしい、どれもおかしい。それなら僕は新世代。何もいらない、なにも知らない。知るも知らぬも明日は食う寝る。どうにもならない、どうにもならない、どうにもならない、やらないしらないやるきないどうでもよい。ただ、つながりが留める。消えてしまえばいいのに。頭打ちゃ消えて、そのまま消えよ。僕は知らない考えない。もういいよ。もういいよ。も。も。じゃ。

袂ブレイカー・のぶ

 「俺はドアノブ、鎌の化身」
 今日も着物の袖の広がり、袂を破いてやるのだ。
 そらきたあいつ着物だぞ。こんな狭い廊下で私とすれ違うと…

スゥ…!袂がノブへ近づく…そこだ!袖の開口部が引っかかった。グッ、キキキシシ…糸が軋み伸びる。しかし人間の反応速度ではここで気がつけない。チッ…糸の一繊維がついに荷重に耐えかね、はぜた。その瞬間。
チチチチブッブバババボッ!
布とともに糸がすべてちぎれホコリが飛び散る。五十年、あるいはそれ以上の時を乗り越えたその着物の袂はついに崩壊した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!」人はいかりとも悲しみとも、あるいは両方か、唸りをあげた。ついにまたノブにしてやられたのだ。その怒りにやり場はない。ノブを殴ろうものなら扉は使い物にならなくなってしまう。腹にまた溜まってゆくのだ。人にできるのは、悪態をつき繕うのみ。
袂を刈り取る形をしている。それがドアノブ、鎌の化身。

扉の向こうには、小人の国が広がっている。

小さな扉は、小人の国へつながっている。

「この扉は何なんだい?」僕は聞いた。

「小人の国につながっています。鍵穴から見えますよ」とジャン・ピエールは答えた。

どら。僕は屈んで覗き込もうとした。すると

「マッテ!メガネを外しなさい」とジャンピエがShoutしたのだが、悲しいかな私の視力は0.012、何も見えないのだ。

「そうしたら何も見えないよ」というと、ジャンピエは両手でThumbs upして

「安心して!その穴は直径1.2mm、ピンホール効果が期待できる!」といったので覗き込んだ。すると向こうに何か有機的な物体が見える。目だった。あっちからも見ていた。びっくりしたもんで瞬時に筋肉が緊張し、後ろにいたジョンピエに頭突きをかましてしまった。ジョンピエは後ろに倒れ込み、ズズドンと周りの配管に雷鳴のような音が反響した。「イッテー。もうコリゴリだ」とジャンピエは言った。それに構わず僕はもう一度覗いた。すると小人がいた。お、いるじゃん!ノブを回して奥へ行こうとすると、ジャンピエが

「メガネを外しなさい」と言った。メガネをかけるな、ということだろう。あまり気にせず、ノブを回した。すると急にほっぺを手のひらでサンドイッチされ、顔面をジョンピエに向けさせられた。

「その偏見を無くしなさい」

ジャンピエが真面目な顔で言った。

「私は確かに西洋人の顔、西洋的な名前だ。しかし、だからといって日本語が話せないわけじゃあない。アイ、キャントスピークイングリッシュ!」でもそれは無理な話だ。

「悲しいかな、もう刷り込まれてしまっているのだよ、ジャンピエよ。常に理性で刷り込みを上回らなければならない。ただ純白は美しい、夕日は美しい、これらにおいてはきっと脳の奥底からきているのだよ」

「じゃあ差別はなくならないの?」と涙とともにジャンピエは言った。知らないね。自分で考えろい。

「アァでもconscienceはconscious、良心は意識的に行なわれるのですよね!」

「ヘヘッ、こいつ、適当言いやがる、ヒッ!」ドアの向こうの小人が言った。

「そんじゃVirtueはVirtualだな!」僕は言った。

「中身が同じとは限らないぞい、ヒーッ!」

一理ある。

寿命と命

 樹木希林さんは「明日死ぬなら何を食べたい」という質問に対し、「何も食べない。食べることは他の命をもらうことであり、明日死ぬなら何者も殺さず死ぬ」というようなことを言っていたそうな。

 なるほどそうだ。確かに。ところであさって死ぬなら、どうする?一週間後なら?三ヶ月で死ぬとなったら?つまり、われわれはいつか死ぬわけで。急に死んだりゆっくり死んだり差はあるけれど。いつもは食事の時死を、寿命を意識しない。もし寿命がわかって「何ヶ月後に死にます。何日前から断食すれば寿命と同時に栄養失調で死ねます」とわかればそれはすばらしい。寿命を最小の殺生で全うできるのだから。樹木希林さんの答えは問題提起だ。

「私はこの牛を殺した命で明日どう生きるのか」

よくわからんパン食べてゲームしてボーッとして初音ミクの声は可愛いなと思いながらこんな文章を書くんだ。僕は、死ぬのが怖いから生きてる。きっと苦しいんだろうって思うから。ごめんね。この気持も朝には忘れるけど。