山林竹田更良記

思いつきを。

改札

 白いガラスで覆われた四角い端末に、紙切れを入れる。

 

ガ、ディィイ

 

 唯一の開口部に紙が巻き込まれる。

 

グーーサリサリサリサリ…チャカッ

 

 読み取られ、用済みになった紙が細切れにされて、のっぺりとした表面に数字が十一と出た。私の一時間の労働は電車の十駅分、その程度。

 

ティピピピピピピ…

 

 手をかざすと数字は一つずつ、ゼロまで減ってゆく。それにしても、一々いい音だ。神は細部に宿る。むやみな多機能は付加価値ではなく混乱を呼ぶものだ。

 

 立ち並ぶステンレス製の角柱、そのてっぺんの画面にその手をかざす。一瞬で私の身体は全て読み取られている。携帯に脱水状態と表示された。知っている。のどが渇いているのだから。言われなくともわかっている。

 下へと階段を下っていると、ブレーキ音がした。ちょうど到着したようだ。

 

タッタパタッタパタパタパタパタタタタタ…

 

 急ぐほどにキャリーケースの三軸回転式コロのリズムは早くなる。楽しくなってきた。足音も合わせよう。

 

タッタカタパタン カパタパ パッカタ タッタカパタンカパタカ ッパパパ コパン!

 

 階段終わり、一番下。まだ電車を覆うチューブのゲートは空いていた。滑り込みセーフ。呼吸が乱れているが、これでいいのだ。現代人は日常で運動をしなさすぎる。これぐらいが、いいのだ。少しずつ高くなってゆく電車のモータ音を聞きながら、ドアの溶接跡を眺める。それは恐ろしくなめらかで、私の心に平穏をもたらす。誇りはここにある。雑に終わらせさせない、何か体に染み付いた習慣のようなものだ。

 外には巨大な卵のようなものが見えた。都庁だ。素敵だけど、ミスマッチに思えるなぁ。線路脇には古い民家があるままである。こいつらは永遠に時代遅れの、現在にこびりついた過去。燃やして消してしまいたい。私は行動しない過激派だから。皆が皆同一の理想を共有するわけはないし、そもそもそこまで考える必要もないのだ。均一な世界は訪れなかった、それだけだ。とらえどころのない曖昧な世界のままだった。