山林竹田更良記

思いつきを。

袂ブレイカー・のぶ

 「俺はドアノブ、鎌の化身」
 今日も着物の袖の広がり、袂を破いてやるのだ。
 そらきたあいつ着物だぞ。こんな狭い廊下で私とすれ違うと…

スゥ…!袂がノブへ近づく…そこだ!袖の開口部が引っかかった。グッ、キキキシシ…糸が軋み伸びる。しかし人間の反応速度ではここで気がつけない。チッ…糸の一繊維がついに荷重に耐えかね、はぜた。その瞬間。
チチチチブッブバババボッ!
布とともに糸がすべてちぎれホコリが飛び散る。五十年、あるいはそれ以上の時を乗り越えたその着物の袂はついに崩壊した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!」人はいかりとも悲しみとも、あるいは両方か、唸りをあげた。ついにまたノブにしてやられたのだ。その怒りにやり場はない。ノブを殴ろうものなら扉は使い物にならなくなってしまう。腹にまた溜まってゆくのだ。人にできるのは、悪態をつき繕うのみ。
袂を刈り取る形をしている。それがドアノブ、鎌の化身。